今日は早起きして潅水し、ごく薄い施肥、活力剤を与え、蕾が出る前の薬散(当分散布はしません)をしました。自家交配苗で初咲きの蕾が出かかっている株がありました。
昨今、エビネの育種に倍数体がよく利用されるようになりました。
今から30年余り前、田村望武先生の「エビネの人工交雑種」(1986年刊)にコルヒチンによる4倍体作出方法や3倍体のことが書かれてあり、小生もかつていろいろ工夫してやってみましたが、コルシチン処理は枯死率が高く思うような成果は出せませんでした。知見の少ない時代に4倍体育成に努力された方々は大変だったと思います。
現在は、倍数体育種にあまり興味を持っていませんので、最近の詳しいことはわかりません。
しかし、倍数体育種はいろいろな効果が期待できます。4倍体では花弁が厚くなってしっかりすることや色が濃く見えるなどの効果がありそうですが、よいことばかりではなく、生長が遅かったり、葉がゴリゴリとした硬い感じになって花茎が伸びにくく花が素直に開かないことがあるなど、必ずしも観賞価値からみればよいことばかりではないようです。
もっぱら育種素材(交配親)として2倍体との交配で観賞価値の高いものができやすい?3倍体作出に利用価値がありそうだと感じています。業者さんの作出された良い4倍体を用いるか、4倍体どうしの交配苗(大体4倍体になる?)から選抜するかでしょうね。
3倍体は4倍体と2倍体の交配(どちらが♂♀でも)で作出でき、4倍体より鑑賞価値が高く、素直に育つものができやすいようですが、3倍体を母株に用いた交配は不稔性が強く出ることもあり、育種親に用いて多くの発芽可能な種子を得にくい場合もよくあります。2倍体に3倍体を交配してみると、いくらか有胚種子ができ発芽するもありますが、これらは2倍体になっているものも多くありそう(推測:3倍体の花粉の中に2倍体になる花粉が含まれている?)です。
なお、当たり前ですが3倍体×3倍体=3倍体には普通はなりません。受精せず落花したり不稔種が多く出ると思います。3倍体は減数分裂がうまくいかないので子孫を残すには向いておらず、かつてのシンビジウムの育種停滞にもつながった話を聞いたことがあります。 また、4倍体、3倍体の花粉の中にはいくらか変異があって、一部は2倍体(n)の花粉も混じっている可能性が十分ありそうで、4倍体×2倍体の交配で育成した3倍体狙いの株が2倍体になってしまう場合もあるようです。
以下の画像は2倍体と
業者交配の3倍体(4倍体×2倍体)、
4倍体(4倍体どうしの交配)見込み苗を育てた株のものです。
倍数体の確認は染色体を調べることが必要ですが、大雑把には細胞の大きさ、気孔の調査をすれば大体の見当がつきます。画像から、2倍体と比較して細胞が大きい、気孔の数が少ない(孔辺細胞が大きい)などから、ほぼ予想どおりの倍数体になっているように見えました。見当をつけるには簡便な方法です(正確ではありません)。
【方法】
アラビアのり(セメダイン、木工ボンド、マニキュアでもよい)を葉裏に薄く塗って乾かし、セロテープをのり部分にしっかり貼ってのりごとはがしてプレパラートに貼りつけ顕微鏡で検鏡(100倍~300倍)する。葉紋を写し取って見るということです
以下の画像は顕微鏡(100倍)の接眼レンズにデジカメを近づけてズームをかけ、同じ倍率(8.9倍)で撮影したもの。視野の一部が拡大されて撮れます。着色などはしていませんがどういうわけかこんな色に写ります。あまり明るくしない方が見やすく、ごく簡単です。ただ我流、昔風のこんなやり方でいいのかはよくわかりません。もっと簡単に直接葉裏を拡大して観察する方法もありそうです。
葉に塗ったのりが乾いたらセロテープを貼ってはがしプレパラートに貼りつけ
2倍体:自然種ニオイエビネ 細胞、気孔が小さい
3倍体:4倍体×2倍体実生(コオズ系) 2倍体より細胞が大きい
4倍体:4倍体×4倍体実生(コオズ系) 3倍体よりさらに細胞が大きい
使用したのりとセロテープ
顕微鏡:50年以上前の超古物ですが十分使えます
倍数体による育種は園芸化の進化手法として普通に行われていますが、エビネでは野性味から離れていくようで今の私の好みからは少し距離感があります。
4倍体はこれからは珍しくなくなり、すばらしい3倍体がたくさん作出されるかもしれませんね。
洋ランでは倍数体育種が古くからおこなわれてきました。エビネでもコルヒチンによる4倍体作出がなされてきましたが、東洋蘭はどうなんですかね?。きっとやってるでしょうね。
ちょっと堅苦しく長い話ですみませんでした。このジャンルはあまり詳しくありません。誤りなどございましたらコメントからご指摘願えればありがたいです。