検定
・病徴からウイルスであるかどうかや、どのウイルスに感染しているかを特定することは難しい
です。よく似た病徴の紛らわしい生理障害や細菌性病斑もあります。検定植物を使って検定す
る方法はありますが、検定用植物をきっちりと育てることは意外に難しく面倒です(検定植物
=アカザ:アマランティカラー、シロザ:キノア、ツルナ)。また検定で病徴が出なかったらといってウイルスフリー
を保証できるものではありません。しかし目で見て病徴の全くない株の検定でウイルスの反応
が出たことはほとんどありませんでした。経験的にはあまりシャープに反応しないことが多い
ようでした(やりかたがまずい?)。
・また、近頃は検定キット(イムノストリップ)が販売されていてCymMVとORSVを簡単に検定
できます。はっきりした病徴の出ているものは反応が出やすいですが、下の画像のように葉に
わずかな病徴しか出ていない材料を使って検定してみると、ごくわずかにCymMVの反応があり
罹病と判断しましたが、わずかな病徴の場合、ウイルス量が少ないためか検定キットでもよく
見ないと見過ごしてしまいそうでした。この検出キットはかなり高価なので1本を縦に2分割
して使用しました。まずは目視による点検が重要と思います。
症状 葉脈が白く網目状になっている。前年秋購入した株の今年新葉
イムノストリップキット
検定結果 上の赤線は関係ありませんが、その下の方に極薄い赤いラインが見えますので反応があるとして罹病と判定
感染
・地植えにした株で、1~2年のうちにウイルス症状が出たものと、そのすぐ近くに植えられて
いる十年以上経つ株には感染機会が十分ありそうなのにウイルス症状が出ていないことがあり
ます。ウイルスに対するエビネの感受性には個体差がありそうで、症状が出やすい品種とそう
でない品種があるのかもしれませんが、ウイルス抵抗性があるとはいえないと思います。
・また、ギラギラにウイルスを発症している株の周りに、様々な交配種(成株)を置いて葉が擦
れるように2年間置きましたが罹病は認められませんでした。しかし擦れで罹病しないというこ
とではありません。ウイルス量の多い時期にこすり合わせば罹病するかもしれません。
感染防止対策
・第三リン酸ソーダ3~5%液に1~3分間器具をつけるとウイルスは不活性化します。効果が高
く便利な薬剤で薬効が長く保てます。広口ビンに入れて手入用のはさみなどを常に漬けておく
と便利(はさみはさびません)です。500g1500円くらい。手指にスプレーして使えないことは
ないですが(手指の消毒には便利)、アルカリなのでお勧めはしません。
・ウイルスは熱に弱いのではさみの火炎消毒(バーナーなど)は有効ですが意外に面倒。
・植替え時が罹病の最大の危機と思われるので手順や器具、手指の消毒などに極力注意。
・罹病株は一時的にマスキングして病徴が見えなくなることがあるが 、治ることはないので新
たな感染源とならないよう処分する(マスキングすることが怪しい)。
・購入など外から入れた株の罹病は時たまあります。必ず隔離して1年くらい様子を見て、異常
がないことをよく確認して慎重に棚に入れます。特に新葉展開から6月末頃までが葉の病徴を
見つけやすく、古葉もチェックします。夏以降はわからなくなる(マスキング)ことがあります。
古い品種は特に気をつけます。
種子伝染
・人工交配による種苗について、エビネの種子は胚乳がなく交配によって種子にウイルスが伝染
することはないと聞いていますが、罹病株の汁液が苗に付着する機会があれば、伝染する可能
性は否定できません。かつて交配すると親株にウイルスがうつるという話ががありましたが、
罹病株の花粉塊の表面にウイルスを含んだ汁液が付着していたとか、交配作業中に罹病株を
触った指で作業を行ったためではないかと思っています。
・1995年頃、両親ともウイルス株どうしの組み合わせで交配してみましたが、苗には1本もウ
イルス病徴は見られませんでした。数株を開花させましたが見かけ上、異常は認められません
でした。ウイルス株の交配によってウイルスフリー苗ができるとは言い切れませんが、得難い
優良形質を持つ罹病株を親に使い遺伝資源を得ることは可能ではないかと思っています。
CymMVとORSVは種子伝染しないといわれていますが、交配用に万全を期して隔離栽培する
のならともかく、一般栽培でウイルス株をあえて保持しておくのはやめるべきと思います。
しぶといウイルス
・ウイルスはカビやバクテリアと違い、細胞を持たず生物とは言えないもので宿主の代謝系の中
でしか増殖できない特殊なものです。
・ウイルス罹病株は枯れてしまうかといえば意外にそうでもなく、生長は思わしくなくてもなか
なか枯れてしまわないところが厄介です。ウイルスは生きた植物体の中でしか増殖できないの
で枯死されると自らが増殖できなくなります(とはいいますが罹病植物が枯死したらすぐに
病原性がなくなるものから、ORSVのように非常に長期間病原性を維持し続けるものもあり
ます)。
・ウイルス病はまだまだ未解明なことが多々ありそうです。ウイルスがひとりで勝手に歩き回る
ことはありません。アブラムシを犯人にしていてはいけません。
一番の伝搬者は人間です。
ウイルスの特性を知って、正しく宇恐れてできることをしっかり実行していくことが楽しい栽培を約束してくれると思っています。私の網室の小屋内では、これまでほとんどウイルスの発生は見られません。老眼で発見が難しくなってきていますががんばります。