基本的には、予防が肝心で時期ごとに発生しやすい病害虫を知り、それらの早期発見のためによく観察し、発生初期に防除することが重要です。病害虫が蔓延してからの防除は効果、効率が低下します。また農薬は防除に役立つ一方で、使い方を誤ると健康への影響や周辺への迷惑、植物への薬害などが発生することがあるので自衛の意味でも基本を押さえておく必要があります。初めて使う農薬は特に気をつけて試し散布をします(品種差があるので注意)。
農薬の使用では薬害で何回も痛い目に遭ってきました。主な例を挙げますと
①数種類の農薬を混合して全面散布し、ひどい薬害発生
②夏にダニが発生し、ダニ剤と合わせて他の殺虫剤を混合して高温下で散布し薬害発生
③花の時期に散布して花弁が脱色。展葉期に散布して葉に薬害発生、あとの生育障害
④ひどい二日酔いにもかかわらず殺虫剤散布を強行し、気分悪くなって寝込んだ
⑤殺菌剤をビン出しの小苗ポットに潅注し、薬害で 多くを枯らした などなど
思い出したくないことばかりですが、貴重な経験にもなりました。
薬害画像1
この後、拡がってひどくなっていきました

薬害画像2
葉先から拡がり、最後は葉を半分以上切りました。葉の元の方も変色している
濃い葉面散布施肥をしてもよく似た症状が出ることがあります。いらんことをしないこと
薬害画像3
ハカマの中に薬害?発生
薬害画像4 花弁に農薬がかかって脱色
注意すべき事項を書いておきます。
・病害を封じ込めようと農薬漬けにして過剰に防除しても効果が期待しにくいばかりでなく、薬害
が出るのがオチです。
軟腐病がこわいからといって展葉中の袴の中に薬剤をしっかりと流し込んで新芽を腐らして
しまったという話も聞いたことがあります。
・新芽伸長直前(3月中下旬)には1~2度予防薬剤(殺虫、殺菌)の散布をしますが、新芽の展
葉期には農薬散布はほとんどしていません(必要を感じませんし、薬害が出やすいです)。
・適期防除が肝心です。そのためにも害虫や病気の発生時期、生態を知っておく必要があります。
・殺虫剤は防除する虫によって効く薬剤が異なります。特にダニはダニ専用剤でなければ効果が
薄いです。
・カビ類に効く薬剤と細菌類に効く薬剤は異なるので、何を防除するためにいつ散布するのかを
明確にして無駄な散布をしないことです。
・葉裏までしっかり散布するようにいわれますが現実には難しいと思います(ある程度、圧のあ
る噴霧器が必要)。病害虫を早期発見し、発生スポットと周辺を徹底防除するのが効果的です。
ダニの葉裏散布は拡散を抑えるために面倒でも集中的に行います。暑い時の発生が多く薬害に
注意が必要です。
・散布量は流れ落ちるほどやっても無駄です。まんべんなく付着する程度(葉先から少したれる
くらい)で十分です。
・散布濃度を濃い目にする必要はありません。薬害が出やすくなります。スポイトなどで正確に
計量する習慣をつける。目分量で入れるとかなり濃い目の散布になっていることが多いと思わ
れます。
・混用は薬害のおそれがあるため2~3剤まで(単剤散布が望ましい)とし、乳剤の混用はしない(=薬害)。いずれにせよ試し散布する。
・農薬の性質を知る
乳剤:乳剤どうしの混用は薬害が出やすくなる(農薬の溶剤濃度が濃くなる)
フロアブル:使いやすく汚れが少ない。使用前によく振る
水和剤:溶けにくいので散布時に良く撹拌・混和する(展着剤必要)
展着剤:入れすぎない。乳剤には不要(フロアブル剤、水和剤には必要)
・混用(2剤以上を混ぜること=混用はメーカーは推奨していません。自己責任で)
混用順:(展着剤)+乳剤+フロアブル剤+水和剤→よく撹拌
・スプレ ー:安物の 性能の悪いものは絶対にやめておくこと=霧が荒く効果が落ちる
霧が安定して細かく、最後まで液が残らず噴霧でき、作りがしっかりしていること
今は蓄圧式で手軽なフルプラ製(NO.4130:容量1リットル)を使用しています。
樹木用の10リットル用もあります。氷結が予想される時には室内に取り込むこと(破損回避)
・農薬は耐性菌、抵抗性害虫の発生により効果が低下することがあります。
できるだけ同じ薬剤を連用しないようにします(特に散布回数が多くなりがちなダニ剤)。
・保管は日の当たらないできるだけ低温のところに置き、有効期限の切れた古い農薬は使用しない
・蘭の栽培者は、農薬の防止力に依存する傾向が強く、やりすぎが多い。農薬による薬害と気付い
ていない人も多く、薬害は散布後すぐには出ず、数日以上たって徐々に出てくることが多いの
で散布の記録をしっかりとっておくことが重要です。何かの病気と勘違いして、余計に薬をか
けてひどくしていることがあるように思います。
・農薬の使用は農薬取締法に基づく規制があり、使用者が遵守する基準 を守る責務があるとされ
ています。農薬は国の検査を経て登録されますが、使用する作物に登録のない農薬は使用でき
ません。容器に記載されているラベルをよく確認し、それに従って使用することになってい
ます(登録は複雑で、同じ名前を含む農薬でも剤ごとに登録内容が違う場合もある:スプラサ
イドなど)。
ところがランに使用できる登録農薬はわずかしかありません。
少し詳しくいえば、農薬登録で非食用作物に区分されている花卉に使えるものは ①個別の花卉
(ランの種類)ごとに登録がある ②花卉類全体に登録がある農薬ということになります。
具体的な薬剤でよく使われるものでは、殺虫剤ではオルトラン(粒)(水)、コテツ、スプラサイ
ド、マラソン、ニッソラン、ピラニカ(EW)など、殺菌剤ではサンヨール、トップジンM、
ポリオキシン(水溶)などですが、複雑化するランの病害虫防除には十分とはいえません。
・巷では、ランに登録のない農薬による防除例が多く紹介されているようですが、非食用作物な
のだからといってメーカーや関係先に、そのような使用はOKなのかとたずねればNOという
答えが返ってきます。
ご自分の責任において研究していただきたいと思います。歯切れが悪いですがご勘弁を。